@@@


その8
PROFILE PUBLICATIONS

The Nakajima B5N "Kate"(1972頃)

今回は少し毛色の変わった本です。
 小学生だった頃、私はプラモデル大好き少年でした。といっても一機100円のヒコーキの模型を作るのがほとんどでした。今と異なり模型を作るにしても塗装は全て筆塗りでした。だいたいどこに何色を塗っていくのかもよくわかりません。そもそも塗料そのものもカラーが豊富とは言いがたい状況でした。

 当時のトモダチだったカトー君は模型雑誌の「モデルアート(今でも刊行されています)」というものを持っていました。見せてもらうと色々詳しく記事が書かれていました。そんななかで広告に「PROFILE」という書籍の広告がありました。なんでもこの本は一冊ずつ航空機の解説がなされており、詳細な塗装の情報も記載されているようなことが書かれていました。しかも洋書!  掲載元は記憶が正しければ代々木の方にあるお店だったと思います。当時千葉県松戸市に住んでいた10歳前後の子供の私にとって「代々木」なんてはるか遠くの世界で、とても行けるところではなかったし「洋書」なんてなんだか「別世界の書物」というイメージでした。代々木に行けなくても通信販売という手段があったと思いますが、子供に「通信販売」なんて未知の世界そのものでどうしようもなく手の届かないものでした。一体どんな本なのであろう?一度見てみたいと思いつつも叶うはずもなく年月が過ぎていきました。

 そんな私も中学生になりました。その頃は模型を作ることはあっても頻度はだいぶ少なく、それよりも「本物」の方に興味が移っていき雑誌などを買ったりしていたものです。
 記憶は定かではないのですが、どこかの書店かで、この雑誌をみつけたときはびっくりしたものです。書棚に一冊だけまごうことなき「Profile」と書かれて洋書があるではないですか!!思わずドキドキして手に取りました。手に持ってみるとたった10ページくらいの本です。中を見ると当たり前ですが全て英語!たぶん中学1年か2年生だった私には文法以前に知らない単語ばかりで内容がわかりませんでした。
 とにかく、あこがれであったProfileであることは間違いありません。値段はよく覚えていませんが500円もしなかったと思います。迷わず購入しました。これ一冊しかなかったので他に選択の余地はなかったのです。

 
 肝心の内容ですでが、No141 Nakajima B5N "Kate"です。と言っても興味のない方にはなんのことだかわからないと思います。これは旧帝国海軍の97式艦上攻撃機(キュウナナ式と読みます。キュウジュウナナではありません)の特集本です。この航空機は日米開戦から中期にかけて活躍した機体です。"Kate"というのは当時連合国側がつけたコードネームなのです(こう説明しても興味のない方にはわからないとは思いますが)。

値段は左下に「2シリング」とあります。シリングは1971年に廃止された通貨(20シリング=1ポンド)なのでこの本は、それ以前に刊行されたものなのでしょう。このことよりこの冊子はイギリス製ということがわかります。ついでにアメリカでの販売価格は50セントとなっています。当時1ドル=360円だったので50セント=180円ということになります。ちなみに1970頃は「少年マガジン」が70円でした。駅の立ち食いそばでは「かけそば」が50円くらいだったし、当時新京成電鉄の五香ー松戸間の運賃が30円(現在は170円)でした。国鉄(JRではない)の初乗り料金は20円か30円だったものです(話がローカルですみません)

全部で12ページのペラペラの冊子ですが紙質は悪くないです

表紙の裏にはカラー三面図が描かれています。これは真珠湾攻撃時の指揮官搭乗機となっていますが、現実にはこんな塗装の機体は存在しなかったようです。尾翼を赤く塗るというのは開戦前にはあったようですが、これは海に不時着した際に発見が容易になるよう赤く塗られたものだそうですが、アメリカと開戦当時にはこのような「敵にもみつかりやすい」塗装は無くなったそうです

内容はその航空機の説明、解説で写真はすべて白黒でカラー写真はありません

 
 さて家でじっくり眺めてみます。わかるのは色々な塗装例の図があります。本来ならばこの多種多様のカラーリングに感動すべきなのでしょうが、その頃の私はすこしずつ知識がついてきており、また国産の雑誌も充実しつつある頃だったので、その図解をうのみにすることはありませんでした。
  中にはどう考えても当時ありえなかった塗装例も掲載されております。これはアヤシイ!!

裏表紙の内側にも様々な塗装例があります。下から2番目の橙色に塗られた機体は空母搭載機とありますが、これもちょっとあやしいです。こんな派手な塗装で前線に出たとは考えにくいものです(私の知る限りでは橙色の塗装は試作機か、練習機であったはず)


  
 しかし文章が読めないのはクヤシイ。辞書を片手に単語をひとつひとつ調べつつ解読を試みるも時間ばかりかかって仕方がない。
 そうだ!トモダチの
イシカワ君の大学生のお兄さんが英語が得意だと言っていた。それじゃあお兄さんに頼んで解説してもらおうと企んでイシカワ君のお兄さんのところ日本を持って行きました。
 事情を知らないイシカワ君のお母さんが私が英語の本を持ってきたというのを聞きつけて「あらイリエくん、英語のお勉強を自分で進んでやるなん
てエライわねえ〜」と褒めてくれました。いいえ、私はそんな向上心に燃えているわけではないのです。ただ単に好きなヒコーキの本を読みたいだけなんですと心のなかで赤面しておりました。肝心の和訳ですがイシカワ君のお兄さんは試験中とのことで、さわりだけ訳してくれただけであとは翻訳してくれませんでした。残念!

 裏表紙には各空母に搭載された機数などが表になっています。こうした紹介は日本の書籍で見ることは少なく、信頼性はともかくとしてオモシロイと思ったものです


 
 まあ内容は多分日本の専門書?ほどは詳しく書かれておるまいと勝手に判断し、あまり気にしませんでした。塗装例にしてもアヤシイものが多く参考にしませんでした。それじゃあ一体何なの?と言われると「一種のコレクション」だったと思われます。
 
 その後、高校生になると模型作りをすることはもはやありませんでしたが航空機は依然として好きでした。神田の古本屋街に行くのが好きで何度も通うと、古本で別のProfile を見つけることがあり、その都度買いもとめました。

その後買い求めた"PROFILE" 青い色のNo236のものはそれまでのものとは異なり約50ページ程となり内容も詳しくなっております。それにしても200数十種類の航空機をシリーズ化したのはすごいものがあると感心してしまいます


 
 大人になってからこれらの本を読み直すと英文もスラスラと読めます。なんでこんな簡単な英文が当時は読めなかったのかと思うくらいです。今、あらためて調べようとしても現在、この本は当然ながら絶版となりインターネットで調べてみても出版社のことなどはわかりませんでした。現代は当時書かれていた記事とは比較にならないくらいの情報がネットや出版物で手に入れることが可能です。でも私にとってこれらの本は当時「洋書」がまだまだ身近ではなく「憧れの本」であったことにかわりなく、大切なものとなっているのです


2012/May/20  加筆

その後、もう少し調べてみたところ この冊子はもともと1967年(=昭和42年)頃に発行されたもののようです。私の知る限りではこの時期に、日本国内で各航空機ごとにまとめられた資料的価値のある本は殆ど無かったと思われます。あっても零戦(零式艦上戦闘機)のような有名な機種くらいで、「艦上攻撃機」のような地味な種類の機体に関してはなかったのではないかと思います。その点この Prifile シリーズは これを見るとわかるように実に多岐にわたり様々な種類の航空機を特集しています。内容的には現在のものとは比較になりませんが、当時の限られた情報(特に敗戦国である日本のような航空機)で、これだけのシリーズを刊行できる英国の文化?というのは奥深いものがあるなあと感心してしまいます

また、こうした本を入手したいと思ったときは今はインターネットを通じてダウンロード販売を行なっているところもあるのですね。他にも先のサイトのように様々な書籍を集めてLibraryをつくりあげて、閲覧サービスできるようになっているサイトもあります。いやあ、時代の流れってすごいものがありますね

@ @ @