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その2
大東亜決戦画集 (1943)

この本は母方の祖父が持っていたもので、かつて高校生の頃に「ちょうだい!ちょうだい!」とせがんで無理やりもらった本です。ちなみに祖父の名前は「亀太郎」といい99歳までお元気だった近所では「スーパーじいさん」と呼ばれていた人でした。このおじいさんはけっこう博学で多彩な人でしたが、あまり話を伺う事も出来ないうちに亡くなってしまったのが残念です。


A3くらいのサイズです。さすがに紙質も悪く(保存状態も良くないのですが)ボロボロです

見開きは当時の戦域が示されています。拡大写真でお分かりかと思いますが、白抜きの日の丸で日本の占領地域を示しています。

発行は昭和18年2月とあります。この時期は日本軍は南太平洋のガダルカナル島を巡る攻防で大消耗戦を強いられていた時期です。戦局は次第に不利になりつつある時期だった頃です。紙質も印刷品質も悪く物資窮乏が明らかになってきていたと思われます。


序文には延々と戦争の正当性が述べられています

目次を見て見ると樺島勝一、山川惣治などの当時の一流画家の名前が見えます。(たぶん若い人は知らないと思いますが)


最初はやはり真珠湾攻撃から始まります。機密管理が徹底していたのでしょう。当時存在しなかった正体不明の攻撃機が空母から発艦しております(自称飛行機マニアの私にはすぐにわかるのです)。

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敵陣(イギリス軍)に夜襲切り込みをかける日本軍です。一件勇ましいように見えますが現実にはあまりあり得ないような構図ではないでしょうか?切り込む以前に射撃されてしまう可能性が高いと思われます。それにしても右側の日本兵は銃剣で敵兵を刺しているようにも見えます。戦争画といっても、こんな場面を描いていいのかなあと思ってしまいます。

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馬で移動をする図です。考えようによってはいかに日本軍が近代化されていない事の裏返しという気もします。

ところでこれを描いたのは樺島勝一氏です。一枚の絵として見た場合、やはり風格があります。

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これは珊瑚海海戦の状況を表したものです。沈んでいくのは空母「サラトガ」とありますが、実際は「レキシントン」だったはずです。また上空を飛ぶのは陸上攻撃機ですが、この海戦には陸上攻撃機は参加しておりません。

これも樺島勝一氏によるものですが、絵の美しさは白眉です。

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これは日本軍がボロ負けしたミッドウェー海戦のものです。敵空母を撃沈し、大勝利のように書かれていますが現実は味方空母4隻と熟練搭乗員を一挙に失うという大敗北でした。

敵航空母艦ヨークタウン型一隻(これは正しい)、甲巡サンフランシスコ型一隻はもろくも撃沈され(これは間違い)、さらに航母エンタープライズ型一隻は大破(小破だったような?)、飛行機150機を撃墜する赫々たる大戦果は挙げられ(こんなに落としていないはず)、敵の太平洋侵攻路の拠点は次々と撃砕されたのである(これこそ大嘘)

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最後にソロモンでの死闘のことが述べられていますが、これも勇ましいばかりで現実とはほど遠い内容です。

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昭和18年初頭という、まだ国民にはいくらか期待が残されていた時期の画集です。しかし紙質や印刷の程度も非常に悪いものがあります。この後、坂を転げるように敗戦へまっしぐらとなるのですが、あと1年遅ければこうした画集を発刊する余裕もなくなっていたのであろうと思われます。

どのような気持ちで祖父はこの本を購入したのか確かめたくとも今はもう出来ません

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