当初は、もう少し花鳥風月を愛でる話や、世相を風刺するようなことを書いていこうと思いましたが、いつの間にか情けない話ばかりになっています。かといって愚痴めいた話はいやなのでこのペースが続きそうです。
院長のひとりごと その 38
Oct.18.2004
墓を買う
一応私の両親は存命中です。しかしながら健在とはとてもかけません。なぜならば父親は癌研病院のお世話になったような人であり、現在も体調は芳しくない状態にあるのです。そういうこともあり両親は「墓地」をボチボチ探そうなどと気楽なことを申しておりました。
普通、世間様では大概の家では「お墓」を持っているものだそうです(茨城出身の私の奥さんの話では)。ところが私の両親は北海道出身です。そもそも北海道出身者なんてものは、「ご先祖は本土で生活に困って北海道で一旗揚げてやろうと移住したものの集まり」と私は思っています。ですから「先祖代々」なんてものとは無縁の存在です。第一、亡くなった父方の祖父は船乗りで若い頃は金鉱を求めて山を巡っていたなんて話もあるくらいのアヤシイ人でした。その祖父はご先祖様のお骨を、なんと茶筒に入れて床の間に置いていたなんていうおおらか?な人でした。ですから私も一応あるらしい両親の宗派や、いわんや家紋などというものは知りません。父親は「自分が死んだら灰は海にまいてくれれば良い」と気楽なことを申しておりました。
そんないい加減な私の両親が墓を買うと言い出しました。
しかし!私の両親のことです。綿密に下調べをしたりはしません。ある日、新聞に歩いて5分ほどのところにあるお寺の「墓地」の広告が「たまたま」入ったので見に行くことになりました。
「ちょっと見てくるから、留守番しててね」と私に留守番をさせて出かけていきました。
一時間ほどしたら帰ってきました。
「どうだった?」と尋ねたら
「決めちゃったよ」となんともあっけないお返事!
「へっ?」
初めて見に行って、その場で決めてしまったそうです。
「宗派とかは問題ないの?」と聞きましたが、今どき特に問題はないらしいです。何でも日蓮宗らしいですが、父親の宗派は違うらしいです。でも母親(自称クリスチャン、でも教会には行かない)いわく「ウチの実家が日蓮宗だから問題ないよ」とおっしゃいます。そういった問題かしら?と思いつつもまあ良いでしょうと私も呆気にとられて何も言えませんでした。そういえば私自身も実家の宗派を知りませんでした。
家に戻って奥さんに話をすると、こうした話になると奥さんはがぜん生き生きしてきます。社会一般のことはとんと疎いのですが、冠婚葬祭のこととなると奥さんはうるさいのです。
そこはどんな場所?方角はどちらをむいているの?等々事細かく聞いてきます。
「そんなもん知らん」と答えると、つくづく呆れたもんだといった顔をします。
「もしかしたら、そこは無縁墓地を整理したところかもしれない。それに周囲のお墓に変な人(?)が埋葬されているかもしれない。そうそう、もしかしたらきちんと整地されていないかもしれない。まだ骨が埋まっているかもしれない」等々いろいろ言ってきます
唖然としていると、次第にヒートアップしてきます。
「古河(奥さんは茨城の古河出身)の方で、こうした話があるのを私は知っている。」と、とうとうと話し始めました。
ある一家に息子さんがいた。小さい頃はとてもいい子だったのが、高校生の頃におかしくなってしまったとのこと。家族はとても心配して原因を探っていたそうです。そこで地元の「その道の詳しい人(なんのこっちゃ?)」に相談したところ、墓の下に「関係ない人の骨」がまだ埋まっているのではないかと言われたそうです。そこで、さっそく調べてみると確かに由来不明の骨が埋まっていたそうです。それを掘り出してきちんと処理?したところ、息子さんはすっかり落ち着き、今では結婚もして幸せに暮らしているとのことでした。
それってまるで、神霊相談の広告みたいだなあと思いつつ、よくそんな話を大まじめに話せるもんだと感心してしまいました。奥さんは最後に「だから、買う前にその場所をデジカメにでも撮って、親戚の詳しい人によく相談した方が良い」とのことです。
「ところで詳しい人ってどこにいるの?私の親戚は皆、北海道の人だから詳しい人なんかいないよ」と言うと奥さんも困った顔をしています。「とにかくよく考えた方が良いよ」と捨てせりふをほざいていました。古河の「詳しい人」を紹介してくれるわけではなさそうです。
後日、「おまえも見に来い」とのことで、その場所を見に行きました。行ってみると間口は65cmしかありません。なんともこじんまりとした場所です。まあ灰になってしまえば別に狭くて問題はないし、などと思ってふと横を見るとごみ箱があります。おお!ごみ箱の方が余程大きなスペースをとっています。ごみ捨て場の方が余程広いようです。まあでもごみ捨て場が狭いのも困りますので、そんなものなのでしょう。
私はもともと古い墓を見るのは好きなのですが、新しいお墓には興味が無いのです。お寺ではもっぱら古い墓石を見て江戸時代のものがあったりすると、一体どんな生活していた人なのであろうと空想を巡らしていました。
患者さんに「墓石屋さん」がいるので方角はどちらがいいと聞いたら「東向き」が一番いいとのことですが、その場所は「西向き」でした。母親は「西日が当たって暖かくて良い。それに狭いから草むしりをしなくて済む。」と意味不明なことを言っていました。何だか夏は蒸し暑そうだなどとこちらも意味不明な発想をしてしまいます。
考えてみると、私はこの年になるまでまともに「墓参り」というものをやったことがないのです。だけれども「正しい墓参りのやり方」は奥さんが詳しいであろうと思ってます。しかし奥さんの実家は「真言宗」だそうなので、すんなりとは行かないのではないかとちょっと心配?です。