その7 増上慢
July/5/2015
先日90歳の女性が家族に付き添われて来院されました
コウノメソッドを希望されて来院したわけではなく転居に伴い当院を訪れたのでした
しかし話をするとどうもかみあいません。
そこで、その気になって診察すると明らかに認知症の症状が出ており、年齢などからおそらく神経原線維変化性認知症(SD-NFT)と思われました
さあ、これはどうにかしなくては思い、付き添いのご家族に「認知症が出てきているようですがどうしますか?」と尋ねたところ
「認知症の症状が出てきているのはあまり問題にしていません。それよりもXXで困って来ている」とのことでした。
要するに認知症自体の症状でご家族は特に困っていない。それよりもそれ以外の症状で困っているとのことです。
私はてっきり認知症の治療をしてほしいという答えが帰ってくると思ったので、その返事は意外でした。
「この程度ならば、少量の薬で改善が期待できますよ」と説明したのでが、ご家族はやんわりとお断りしてきました。
私は今まで認知症の患者さんを見つけたら、認知症に対して何らかの対応をするものだと思い込んでいました。ところがご家族は認知症に関しては特に問題とされていないのです
そうなのです、考えてみればそもそもコウノメソッドは「介護する家族を救う」ということが主眼の一つなのです。すなわち「家族が困っていない」のであれば積極的に認知症の症状に関しては対応しないというのも選択肢の一つなのではないか」と思い始めました
認知症の患者さんを見たら、即認知症の治療を開始するというのは医師の勝手な思い上がりなのかもしれないと思い始めました
おそらくこの患者さんに関して言えば、徐々に終末に向けてソフト・ランディングの態勢に入りつつあると言っていいのかもしれません。医師のやるべき仕事は「何が何でも認知症の治療を行う。のではなく、いかにソフト・ランディングを成功させるか」ということなのかもしれません。
認知症の患者さんはどんどん増えてくるでしょう。
しかし全ての認知症患者さんに同じように対応するのではなく、その患者さん一人ひとりに見合った対応をしていかなくてはいけないのではないか?と改めて考え直す今日このごろなのです
注)神経原線維変化性認知症(SD-NFT)だとすると進行は緩やかであり、性格も穏やかであることが多いので介護上トラブルは比較的少ないようです