コウノメソッド徒然草

その6 レビー小体型認知症(DLB)とドネペジル

May/5/2015

 


 
 今回はレビー小体型認知症(DLB)とドネペジル(アリセプト)に関することを書いてみたいと思います


 現在厚生労働省からDLBの治療薬として認められているのはドネペジル、しかも先発品の”アリセプト”のみです(後発品、ジェネリックは認められていない)
ところが実際には私はDLBに対してアリセプトを第一選択薬とはしていません

なぜなら
DLBにアリセプトを投与するとかえって症状が悪化することが多いからです

 当院を受診される患者さんの多くがアリセプトを投与されてかえって具合が悪くなり、中止すると改善する場合が多い
この場合の悪化とは「怒りっぽくなっている」ことが殆どです

 しかしアリセプトを中止すると穏やかになるが、今度は中核症状が悪化することがしばしあります。
こうしたときにレミニールやリバスタッチを後から加えてみても中核症状に対する効果は今ひとつの場合があります。
だからといって再びアリセプトを再開しても、中核症状が改善することもないようです
それでは最初からアリセプトのままでよかったのでは?という意見もあるかと思われます。

 おそらくコウノメソッドに興味のない医師ならばアリセプトはそのままにして「興奮するのは認知症の症状のため」と考えてリスパダールなどの薬剤を処方して鎮静させるよう試みると思われます
しかし当方からすれば、それはマッチポンプみたいなものとおもえてしかたがありません
ただ、確かにアリセプトが効果的だったこともあります

5年ほど前、まだコウノメソッドを知る前に、施設のとある認知症の患者さんを診療していました
施設入居中でしたが認知症が進行していき、画像ではアルツハイマー型認知症(ATD)とのことでした
今考えると当時すでに87歳であり、87歳初発のATDなんて考えにくいのですが、当時はそこまで考えませんでした
とにかく当時は認知症=アリセプト、という頭しかなかったのでアリセプトを投与しました。

 するとどうでしょう。活気が出てきたのです。
これはいいやとアリセプト投与を続けましたが、効果の持続は約10ヶ月であり、それ以降は再び認知症が急激に進行し数年後にお亡くなりになりました

今にして思えば。神経原線維変化型老年認知症(SD-NFT)かDLBだったのかもしれません
もしDLBであったのならアリセプトが効果的だった例といえます

 また、ずっとATDとの診断のもとアリセプトを数年にわたって大学病院から投与されていた女性患者がいました
通院が困難というより、おそらく代わり映えしないから、という理由で当方に診療継続依頼となりました

 認知症の進行が著しく、かつパーキンソン症状が著明であり、どうみてもATDというよりDLBでした
アリセプトがダラダラ投与されていたのでアリセプトを中止しリバスタッチに変更しました

 薬剤変更により症状の改善が見られると期待したのですが、思ったような効果は見られませんでした
それどころ看護スタッフからは「アリセプトを内服している時のほうが良かった」との意見が聞こえてきました
その後、色々工夫してみましたが中核症状が改善することはなく、現在周辺症状の対応にアタマを痛めているという状況です


 通院患者さんでもアリセプトをやめたら穏やかになったが、中核症状の進行が気になるというケースがあります


 一体これはどうしたことなのであろうかとずっと疑問に思っていました。
私の対応がまずいのであろうかともずいぶん考えました

しかし最近、教えてもらったサイトが以下のものです


老年科医の独り言 

そこにこんな文章がありました

その中の一文を抜粋すると



良くアリセプトを中止するといろいろな事が出来なくなると言われていますが、これはレビーのケースに多くみられる現象だと思います。
私が最初にアリセプトを使用したケースも、短期記憶障害が目立ったので、アリセプトを開始しました。この時は著しい改善を見て、ほぼ正常になったと思われる状態まで回復し非常に驚かされた事が記憶に強く残っています。その後いろいろな機能低下が目立ち不安が増強してきたため、アリセプトを中止しました。特に短期記憶障害が高度と成った為、アリセプトの効果が無くなったと考え中止しました。中止で残存していた実行機能が急激に衰えて行ったことが強く印象に残っています。アリセプトによりマイネルト核のアセチルコリンの作用が増強されていたのです。アリセプト中止で、急激に実行機能の低下を来したのです。


詳しいことは各自で原文をお読みください。これを読んでようやく私は納得することが出来ました


これを読んでからアリセプトを中止にて中核症状が悪化するケースはDLBの要素が強かったのでは無いかと思えるようになりました
このことを踏まえ、今後の治療方針を組み立てていかなくてはならないなとアタマを整理しております

 現在、施設で寝たきりの男性認知症患者さんの診療を行っていますが、ご家族の話では「アリセプトを開始してから意識がはっきりしてきた」とのことです。この患者さんは脳血管型認知症(VD)が主との診療情報でしたが、以上のことを踏まえるとDLBの症状が主体であるのかもしれません。めだった周辺症状もないのでしばらくはアリセプト継続でいいのではないかと思っています。
 
 このような患者さんに対して、アリセプトを中止すると再び意識レベルがガクンと下がる可能性があり、一旦レベルが下がると回復させるのに結構苦労するであろうし、そうするとご家族からも一気に不信感を抱かれる可能性があります

 このようにDLBでも確かにアリセプトが効果的ある例はあるとおもいます

 そうしたことを考えると、すでにDLBでアリセプトで治療中で症状が安定している患者さんに関しては無理に薬剤を変更する必要は無いのではと考えます

 しかし未治療の患者さんに対してはアリセプトが効果的であるか否かは使用してみないとわからないことであり、それよりもアリセプトによる自律神経系の障害が出現することのほうが嫌なのです
→詳しくはこちらより
http://ameblo.jp/lewybody/theme-10088841888.html


 そうしたことより私は未治療のDLBの患者さんにアリセプトを第一選択にすることは今後もないと思われます。しかし他所から紹介される患者さんのほとんどは病型を問わずドネペジル(アリセプト)処方例が圧倒的に多いようです。しかも時には「アリセプト10mgでも効果が無いようだから治験のアリセプト23mgを試しましょうか?」とまで言われることもあるようです。