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コウノメソッド徒然草

その14 治療はいつもヒヤヒヤモノ

 

 以前も書きましたが交通不便の当院では、認知症の治療を求めていらっしゃる方はそれほど多くありません。そんなわけでのんびりと診療をしております


 もともと近所の方が次第に認知症の症状が出てきたケースは、経緯もわかっているのでそれなりに対応が出来る場合が多いです。
 問題は今まであちこちで診察を受け、どうしようもなくて当院に来られる患者さん達です。
 どうしようもなくて来院されるので当然症状もイロイロです。一筋縄では行かないケースが多いです。またこうした患者さん達に対してはガイドラインなどというものはありません(もっとも大学病院などのエライ先生達が出しているガイドラインはもともと当てにしておりませんが)

 そうした患者さん達に対しては、まずいままでの経過を聞き出すのは当然として、投薬内容を確認することが大切です。多くの場合は多種多様な薬が処方されているので、まずは減薬〜中止を試みます。これにしたって、どの薬から減らすか、もしくは中止するかなんてマニュアルはありません。これもその患者さんをじーっと観察して、あれこれ考えて「えいやっ」と決めて取り掛かるのです。うまく行くこともあればダメなときもあります。

 ケース1)やたら歩行時ひざが崩れるように転ぶという患者さんが受診されました。よくよく確認するとどうも薬が多すぎるようです。その中からおそらく「この薬」が余計と考えて、その薬の内服を中止としたら、どんぴしゃりで転ぶことは無くなりました。でも認知症それ自体は改善していません。要はこれからが治療の本番というところでしょう

 ケース2)10年以上前から物忘れの症状が出て、あちこちの医療機関を受診し、投薬を受けている患者さん。夜間、興奮するために家族が眠れないというのが一番の悩みとのことでした。 
 正直「えー?そんなの私に治せるわけないじゃん!!」としり込みしましたが逃げるわけにも行きません。イロイロ考えて「ダメでもともと」でリバスタッチパッチ2.25mgを夜に貼付という正規の最低量のさらに半分の量で処方(ちなみにこの量で処方すると薬局によっては「間違いでないですか?」と問い合わせが来ることがあります)してみました。多分ダメだろうなあと思っていましたが、幸い効果があり家族は朝まで眠ることが出来たとのことでした。それを聞いて私も心底ホッとしたものでした。でも認知症自体は改善しておりません

 ケース3)3年くらい前から認知症の症状が出現。大学病院では治療法は無いといわれ、最初は脳血管性認知症、次にアルツハイマー型認知症と言われ、近医ではレビー小体型認知症と言われたそうです(多分レビーに近いと思われます)
 やはり夜中に起き出してガサゴソと窓を開けたり閉めたりやらでご家族が近所に気兼ねして眠れないとのことでした。症状としてピック化していると考え、ピックに合わせた対応しましたがビクともせず、当初ご家族からは「ちっともよくならない」と言われてしまいました。そうやって何回かそうしたやり取りを交わして、最終的に抗精神病薬を調整することにより一定の効果が出るようになりご家族も眠れるようになったと言ってくれるようになりました。
 実はこのケースではなかなか治療に反応せず、私も逃げ出したくなり入院させることも考えたのですが、ご家族が入院に反対されたため頑張らざるを得なくなり最終的にうまく行ったケースです。もし、あの時ご家族が入院に同意されたら、今ごろは入院したままだったかも知れません

 こうやって考えると結構ヒヤヒヤモノです。ややこしい症状を訴えて来院される患者さんを診察するとき、ワタシはいつもハラハラドキドキしております。「こうすれば良くなる!」というマニュアルはないのです。コウノメソッドのご本尊である河野先生は道筋こそ示してくれますが、最終的にはその患者さん個人個人に合わせたいわゆるテーラーメイドの治療が必要なのです。どうしてわからない症例にぶち当たると河野先生を始め、仲間の先生達に相談するのですが最終的な判断はワタシがせねばなりません。そうしたわけで小心者の私はいつもハラハラドキドキしながら診療に臨んでいるのです。

認知症とは異なりますが非常に役に立つお勧め本です